豆腐を「楽しむ」後継者の信念|projectdesign.jp

鳥越 淳司(相模屋食料 代表取締役社長)2020年9月号

「ザクとうふ」などユニークな新商品を次々に開発し、2002年の入社当時、28億円だった売上高は、10倍の300億円に。
豆腐メーカーである相模屋食料の3代目、鳥越淳司社長は自社の限界を決めつけず、売上高1000億円に向けて独創に磨きをかける。


鳥越 淳司(相模屋食料 代表取締役社長)

事業承継がうまくいった理由

――鳥越社長は後継者(2代目社長の三女と結婚)として、2002年に相模屋食料に入社し、2007年に3代目に就任されています。

鳥越 先代の江原寛一社長(現会長)は「やりたいようにやれ」と、私のやることに口を出すことはありませんでした。
当社の事業承継がうまくいった理由は、私がどうこうではなく、先代が何もかも我慢して任せてくれたからだと思います。
その意味では当社は、特異な例かもしれません。
他の会社では、先代が口頭では「任せる」と言いながら、経験豊富な先輩経営者として我慢できずに口を挟んでしまうことも多いのだと思います。

また、経営を任される後継者のほうにも努力が求められます。
私の場合、雪印乳業を経て相模屋の次期社長候補として入ったわけですが、入社後は豆腐づくりの修行から始めて真夜中の1時に出勤していました。
まずは生産現場で徹底的に学び、豆腐づくりの職人の腕を磨いたことで社員からも認められるようになりました。

自社の限界を決めつけず、高い目標を掲げる

――鳥越社長が入社した2002年当時、相模屋の売上高は28億円でしたが、今期の売上高は約300億円を見込みます。
豆腐には将来性があると早くから見抜かれていたのですか。

鳥越 最初から、豆腐市場には可能性があると考えていたわけではありません。
豆腐業界に転身してみると、みんなが暗い顔をして後ろ向きの話ばかりしている。
価格競争を強いられて自信を失い、誰も新しいことに挑戦していない。
それは逆に、何かを始めれば競争相手がいないことを意味しますから、チャンスがあるのではないか
と漠然と感じていました。

だからと言って、どうすれば勝てるかが見えていたわけではありません。
私は、自社の限界を決めつけず、できることをがむしゃらにやってきました。
その結果、豆腐業界で初めて売上高100億円を達成。最終的な目標は、売上高1000億円です。

それは、論理的に導き出された目標ではありません。
しかし、現状から積み上げて綿密な計算をしていたら、どうしても夢は小さくなりがちです。
1000億円という高い目標がなければ、現在のように売上高300億円規模にまで成長することはなかったでしょう。

大きな目標を見据えつつ、途中にあるゴールはその都度変わります。
ただし、次のゴールに向けて全力で突っ走っていても、退かなければならない時は必ずあります。
「3歩進んで2歩下がる」というフレーズがありますが、3歩進んだうえで、下がるのを1歩だけに留めようとするのが大企業の戦い方。
私たちのような中小企業は、失うものを恐れず、もっと思い切って前に進み、「4歩進んで2歩下がる」にしなければなりません。

4歩進むために必要なことは主に3つあって、
1つは覚悟を決める。
そして、100点満点への憧れを捨てる。
最後は、自分を信じ抜く

相模屋は最初から完璧を目指さず、50%の準備があれば全力で始めるという姿勢です。
その時々の課題、挑戦できる施策に一点突破で集中していきます。

自分のアイデアを信じ、多くの人を巻き込む

――鳥越社長は自ら商品開発を牽引し、「ザクとうふ」などユニークなヒット商品を次々と生み出しています。

鳥越 私はごく普通のサラリーマン家庭に育ち、MBAなどの経営理論を学んだわけでもありません。
私の行動基準をあえて言うなら、思い立ったらすぐやる。
ポイントは言うだけで終わらせず、自分で一から実現する。
自ら動いて実際にできることを示せば、周りの見方も変わってきます。

当社には今、100種以上のオリジナル豆腐がありますが、機動戦士ガンダムとコラボした「ザクとうふ」や、低脂肪豆乳ににがりを加えて発酵させてつくる植物性100%の「BEYOND TOFU(ビヨンドとうふ)」も、最初は社員や関係者から「何をバカなことを」「できるわけない」といった反応でした。
しかし、それが実現できるとわかると、周囲も協力してくれるようになり好循環が生まれていきます。


機動戦士ガンダムとコラボした「ザクとうふ」。
鳥越社長は自ら商品開発を牽引し、大ヒットに結び付けた(写真は2020年発売の「ザクとうふ改」)
Ⓒ SOTSU・SUNRISE

最初のアイデア段階で、周りがダメだと言うものが全て良いとは限りませんが、全員が良いと言うものは確実にダメなような気がします。
私個人がイメージした企画を感度良く面白がって実行に移せる人材を7~8年かけて育成し、今、開発チームには女性1名が所属しています。

――「ザクとうふ」を着想したのは、機動戦士ガンダムのイベントを訪れた際、様々な業界とガンダムとのコラボアイテムを見たことがきっかけだったそうですが、ほとんどの人は同じイベントに行っても、それを着想の機会にすることはないと思います。
いわゆる”気づき体質”になるような努力を意識してされているのですか。

鳥越 「ザクとうふ」に関しては、単にやりたかっただけです(笑)。

「ナチュラルとうふ(BEYOND TOFU)」は東京ガールズコレクションで初披露したのですが、F1層(20歳~34歳の女性)が集まるファッションショーのランナウエイにお豆腐を立たせたいと、その想いだけで突き進みました。


豆腐の新たなマーケットを開拓した植物性100%の「BEYOND TOFU」。
企画当初は周囲の反対にあったが、鳥越社長は自分を信じて商品化を果たした

たいていの人は、飲み会のネタとして面白い話で終わらせるようなことでも、私は「絶対に実現する」と100%本気。
飲み会のような場で雑談していると、たくさんの人がアイデアを思いつきます。
しかし、そのアイデアを自分で信じ切れていないし、実現できなかったら恥ずかしいので、積極的に人には話そうとはしない。

私は積極的にアイデアを話して、周りを巻き込んでいきます。
自分だけでやれることはたかが知れていますし、「こいつは本当にやろうとしている」ことが伝わると、助けてくれる人は出てくるものです。
チャンスが訪れた時に周りを巻き込めていると、そのアイデアは実現していきます。

豆腐の事業を楽しむことから、未来は拓かれる

――ファミリービジネス(同族経営、同族企業)の優位性については、どのように感じられていますか。

鳥越 ファミリービジネスでは、経営トップが責任をとるという覚悟を決めれば、何だってできる。
普通の会社で一社員が「ザクとうふ」を提案しても、絶対に企画は通らないでしょう。
なぜ「ザクとうふ」が良いのか、理屈で説明できるものではありません。

ファミリービジネスの豆腐屋はたくさんありますが、嫌々経営を継いでいることも多い。
嫌々とやっている人に、豆腐を面白くする戦略は描けません。
私の場合、周りから「豆腐の事業に心からワクワクして楽しんでいる」と言われます

だから、新しいことに挑戦できるのだと思います。

豆腐は、日本中の誰もが知っている食べ物であり、ファンもたくさんいる。
豆腐屋の数が減っているとしても、豆腐は無くてはならないものであり、たくさんの人が毎日のように食べ続けている。
私は、そうした視点で豆腐を見ることができたから、楽しめているのかもしれません。


相模屋の急成長の原動力となった第三工場の製造ライン

――相模屋は近年、全国の豆腐メーカーを子会社化し、経営再建にも取り組んでいます。

鳥越 各地の豆腐メーカーが潰れていく姿を見て、1社でも救いたいという思いでやっています。
11年間赤字を続けていた豆腐メーカーを5ヵ月で黒字化するなど、すでに6社の再建を果たしました。

結果的に当社の事業拡大につながっていますが、再建には膨大な手間がかかりますから、単に事業拡大を目的とするなら、新工場を建設したほうが効率的です。
あくまで、その会社の社名や伝統を残し、地域の雇用や製造拠点を維持するためにやっていることです。

当社が子会社化した豆腐メーカーの中には、後継者問題に直面していた企業もあります。
世の中では、豆腐の先行きは暗いと考えている豆腐メーカーがほとんどで、息子が継ぎたがらない。
繰り返しになりますが、逆にこうした状況こそがビッグチャンスです。
私たちの取り組みを通して、豆腐にはまだまだ可能性があると感じる人が増えてほしいと思います。

情報源: ユニーク商品を次々ヒット 豆腐を「楽しむ」後継者の信念 | 2020年9月号 | 事業構想オンライン

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です