企業版ふる納に芽、6市町村で10億超|nikkei.com

2022年10月21日 21:00 [会員限定記事]

法人が自治体に寄付する企業版ふるさと納税が広がってきた。
2021年度の総寄付額は前年度の2.1倍に膨らみ、16年度の制度開始後、累計で10億円超を集めた自治体は6市町村に上る。
新たな「自主財源」は活性化に向けた大きな武器となる。
工場立地など事業上のつながりが深い地域だけでなく、首長が率先して「営業」した自治体などに寄付が集まった。

データで読む地域再生

企業版ふるさと納税は民間企業が国に認定を受けた地方創生の計画を持つ都道府県や市町村を選んで寄付ができる制度で、寄付した企業は立地自治体に納める法人住民税の控除などが受けられる上、一部を損金に計上することで最大9割、税負担を軽減できる。
本社がある自治体への寄付はできない。
寄付実績のPRはできるが、個人版と異なり返礼品の受け取りは禁止されている。

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全国の寄付額は19年度まで20億~30億円程度で推移していたが、20年度に税負担の軽減割合が最大6割から高まったことを受け、21年度は225億円、利用企業数3098社まで拡大した。
参加する自治体も21年度は前年度比8割増の956自治体と増加した。

自治体別に16~21年度の累計受け入れ額を集計したところ、最多は青森県東通村の18.3億円、2位は静岡県裾野市の17.4億円だった。
東通村は東北電力など原子力発電関連、裾野市はトヨタ自動車などが主な寄付企業で、もともと事業上のつながりが深い地域に企業が寄付していた。

企業版ふるさと納税で寄付を呼びかける山本・前橋市長の直筆の手紙

一方でゆかりがない企業に自治体が積極的に営業することで、寄付獲得に成功したケースも多い
全国3位の17.0億円を集めた茨城県境町は、町の有識者会議の民間委員などに知人の創業経営者などを紹介してもらい、町長がトップセールスを仕掛けている。
同町職員から町議を経て町長へと転じた橋本正裕氏は「企業版では企業が納める税金の使い方を希望できる。
そこを理解して『営業』すれば自治体間で差が出る」と話す。

営業では相手が興味を引く寄付金の活用事業や税軽減の効果を最大限に生かせる寄付の規模などを企業ごとに提案する。
多い時は月に数回は経営者らと会い税収の1割ほどにあたる3億~4億円程度を毎年安定して獲得する。

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前橋市は元国会議員秘書で群馬県議も務めた山本龍市長が直筆の手紙を約300社に送付した。
制度を知らない企業もあるため紹介するパンフレットも同封する。
手紙効果もあって、寄付受け入れ額は20年度の10万円から21年度は3.8億円と大幅に増えた。
22年度も9月までに2.1億円と好調だ。

明確な活用事業を掲げて寄付を集めたのは徳島県神山町。
IT(情報技術)起業家の輩出を目指して23年に開校する「神山まるごと高専」の運営支援事業を国の企業版ふるさと納税ポータルサイト上でPRする。

実際の寄付集めは高専の寺田親弘理事長(Sansan社長)が企業や個人を延べ300~400回以上説いて回った。
人口4900人の同町にとって高専は「過疎の町の存続を懸けた一大プロジェクト」(後藤正和町長、元町議)といい、同町は寄付金のほとんどを高専の寮の整備や新校舎建築の補助金に充てる。

企業版ふるさと納税には都市部に集まる税収を地方に分散させる狙いがある。
自治体財源は社会保障費の増加などにより硬直化が進む。
1970年ごろに70%前後だった経常収支比率は直近で90%前後で推移し政策的自由度の高い財源が1割弱にまで縮小した。
茨城県境町の橋本町長は「お金がなければ稼ぐマネジメントが重要」と指摘する。

(地方財政エディター 杉本耕太郎、本田幸久、管野宏哉、グラフィックス 貝瀬周平)

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情報源: 企業版ふるさと納税に芽 6市町村、累計で10億円超 データで読む地域再生 – 日本経済新聞

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